七夕・・・って、常日頃、身を飾ることも忘れて
仕事に精を出す女性に男たちが尽くすのが本分・・・
そんなことを書こうと決めていた今日なのだから、
こういう流れになったら抗いようもなく。
地元平塚七夕祭り最終日にして雨。
移動手段として残されたのは徒歩のみ!
一昨日作ったいくつもの足の裏の肉刺が、「まめ」を
「肉刺」と書くのだと、今日も痛いほど教えてくれる。
駅裏に当たる南口から、忍び寄り、速やかに目的を果たす。
その道程、都内に店舗を持つ宝石店の本店がある。
度胸試しには格好。
ギイ...ともカランカランとも、ピンポーンともいわず、
静かに扉は重く開き、
これまた静かに重く、女性が僕を迎える。
何かを話しかけられている。
聴こえない。
応えない。
顔も見られない。
僕は今、宝石店を白昼堂々、たった一人で物色しているのだ。
店内を一とおり見て周り、動揺は務めて消して、扉を開ける。
「ありがとうございました。」
声は最後まで静かで、しかし重厚だった。
再度、歩道へ出て歩を進めながら、僕は心の中で拳を握った。
「よし、これで、大分度胸がついた。
歩いてきた甲斐があった!
最後まで、店主の顔は見られなかったけど・・・。」
結局、僕の人生には安くて美味しいお店と書店、
楽器店とレコード店があれば良かったんだよな。
と、改めて思っていると駅に到着。
駅ビルからデパートへ梯子をして、
それらしい店を押しなべて物色。
さっきの一件目がいい具合に力を与えてくれる。
女性だらけだろうが、気にならなくなってきた。
・・・と、思った矢先、下着も一緒に売るってのはどうだ!?
いくらなんでもそれは販促、じゃなくて反則だろう!?!?
途中で貰った七夕団扇でパタパタ扇ぐのは
宝石店という場に多少場違いな気がするので慎む、
しかし、高級店だろうが何だろうが、最早、
臆することはない。
ともかく、このミッションを一刻も早く達成し、
僕は帰還したいだけなのだ。
あれこれ見ているうちに僕が得た、最初の教訓は、
「ガラスケースに入っていない指輪はお呼びじゃない」だ。
これを得る頃にはあらかたのデパート内の貴金属店は制覇。
更なる獲物を求めて七夕祭りの雑踏へ出る。
目当ての場所へ行くとそこは眼鏡店だったりして。
日頃、本当に宝石店なんぞは僕の眼中にないのだと、
そのたびに思い知らされる。
「魚屋電気店」とか「魚屋八百屋」とか。
魚屋って姓が密集する石川県だかの港町では
そんなややこしいのが多いって聞いた気がするけど。
一体、誰だ!?
こんな紛らわしいネーミングをしたのは!
「ジュエル」とか「ジュエリー」とかの看板を雑踏に見つけ、
踊る気持ちで辿り着くと横に小さく
「ラウンジ」とか「サロン」とか「パブ」とか書いてある。
疲れた足を引きずりながら僕は何度も憤っていると、
そこへ巡回の警察官がやってきた。
面白いから・・・その理由だけで、こんな行動に出たのは
僕が歩きつかれてハイになっていたからだろう。
「お巡りさん、この通りに宝石店はありませんか?」の問いに
「何、これから強盗にでも行くの?」と年配の方の警官が
応えてくれたら少しは疲れも忘れたのだけど、
彼は、若い方の警官がしどろもどろになって
「いや・本官は・この様な質問を・されるのが・初めてでして」
・・・なんて繰り返すのを笑って見ているだけ。
本官よりも本館に用事がある僕は二人に見切りをつけて
その場を離れた。
空腹も忘れてさ迷っていると、今度こそ本当に貴金属店の看板が!
喜び勇んで飛び込んだ店内は本日、最も重厚な空気。
そこで待っていたのは恐怖の体験なのであった・・・。
後編へ続く。
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