お袋と喧嘩したらしい親父は、
ただの空間と化したドアノブの軸穴を
ドライバーで掻き回します。
僕はといえば、4つに砕けた部品のうち、
一番大きいものを溝から取り出そうとして
耳かきなんぞを持ち出したりして。
そこで、戸板一枚を挟んでここでも口論が始まります。
幼い頃から父の力まかせな強引さが嫌いだった僕。
きっと向こうは僕の細かさが、何をやっているのか不明で
苛々してきたのでしょう。
戸板一枚を間に置いた口論も結局、昔からのパターンで。
すると何だか懐かしく、怒りながらも救出に手を貸してくれる
親父の愛情を感じたりしてきました。
安寿と厨子王か、青函トンネル開通か?
そんな感慨を打ち破った親父の決断、
結局は「プロに任せよう」。
でも、このドアノブに鍵は付いていないので
鍵屋さんが何とかしてくれるかは疑問なのですが。
で、取り敢えずNTTの番号案内に問い合わせ。
するとこちらの住所を訊いて女性が言いました。
「ご近所では2件のお届けがあります。」
「場所はどことどこですか?」と僕。
「一件は竜城が丘、もう一件は菫平ですから
竜城が丘の方で宜しいですか?」
「・・・って、あんた、ここが菫平だと確認しておいて
何故、遠い方を言う!」と僕が突っ込むと、
「ですけど・・・!」と不服そうに。
番号案内で逆接の接続詞を聞かなきゃならないのか、
不思議に思いつつ、教えられた番号に電話しました。
しかし、担当者が平塚にいないので、今日は対応出来ないと、
にべもない返事。
階下で親父が電話で話す声が聞こえていたので
もう一軒に当ってくれているのだと思い、
数分後、どうなっているのか聞いてみると思いもよらない返事。
「そんなものインターネットで調べろ!」
いや、この間、30分から経っているんですけど...。
じゃ、今まで親父は何をしていたのかというと
お袋とひたすらの口論。
激しさと声量を増すバトルはこちらにも筒抜けです。
そしてその内容たるや恐ろしいものでした。
小さなきっかけでお袋はどこまでも昔のことを蒸し返し、
時間を遡っていきます。
しかもお袋の口撃は、オウンゴールの大連発。
黙って聞いていれば、第三者が親父の味方をして
お袋を非難しているようにしか聞こえません。
しかし、親父もそれに気付かず、見当違いの反論を繰り返すので、
こちらからすれば、親父の味方と事情を知らないお節介者の
口喧嘩の様相を呈してきました。
「それより鍵屋はどうなったんだよ!?」
背後から浴びせかけられた僕からの不意打ちに
二人の口論は一瞬、静まりました。
でかしたのか、僕!?
(to be continued…)
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